Material Science / Condensed Matter Physics group at Physics Lab.2006

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Last Update: Apr.21, 2006

現実と夢の狭間を歩む旅

ここでは、今回の五月祭物性実験物性班の一つのテーマである量子ポイントコンタクト(QPC)について、 代表者としての挨拶も兼ねてお話ししたいと思います。本来、東京大学物理学科五月祭実験は普段物理学に 接する機会のない方々に少しでも物理学から得られる感動を味わってもらい、またその結果、実際に科学に 対する関心を持ってもらえれば、という啓蒙的な意味合いを持つ暗黙のコンセプトの上に長い間続けられて きました。そういう意味では今回我々が進めている QPCというテーマは少しアドバンスドな感じがするのは 事実です。試料作製から測定に至るまで最新の技術・装置が用いられ、到底我々学部生だけで実験を進める ことは不可能なレベルの実験です。しかしどんなに複雑な装置を使い、どれだけ混沌としたデータの解析が 必要だとしても、我々物理学者が目指すところはその奥にある最も単純は真理なのです。つまり、いつでも 真実は全く予備知識のない人に説明できるほど単純で美しいのです。ただしそれを手にするためには非常に 複雑な経路を辿る必要があるというのも事実です。それは、実験のみならず理論研究においても同じです。 ですから今回のこのテーマは少し敷居が高いように思われるかもしれませんが、なんのことはない、そこに 隠されている真実は不思議で魅力的でありながらシンプルな議論で理解できるものなのです。さらに、この QPC/コンダクタンスの量子化という内容は理論的基礎、さらなる実験技術、応用等のあらゆる面で今現在も 解明・進歩が進んでいる分野でありまして、そのような物理学の最先端を垣間見るという意味でもこの実験 は物理を詳しく勉強されてない方から研究に向おうしている学徒諸君においても楽しめるものだと言えます。 我々物理学徒にとっても夢のような実験を現実に皆さんの前で示せるのは大変うれしいことです。
ではここからはほんの少しですがこの実験の概要について簡単にご説明差し上げようと思います。皆さん は、物理を詳しく学ばれているか否かに関わらず、おそらく、中学生のときに物質の最小単位として原子が 如何なる姿をしているかということを簡単にを学ばれたと思います。それは原子核を太陽に喩え、その周り の電子を惑星に喩えるという太陽系モデルでした。これは大変面白い話で、天体という我々からすると大変 大きなスケールの世界と物質の最小単位の世界とが同じ姿をしている、言わば、極小の物理の世界に宇宙が 存在するということを言っています。このモデルは、我々物理学科生の大先輩に当たります長岡半太郎氏 (1865〜1950)が提唱されたもので、20世紀の科学の発展を促すことになった一つの大きな成果 でした。しかしここで問題になるのは、果たして、宇宙のような大きな世界を記述する物理法則と、物質の 最小単位を記述する法則がほんとに全く同じものなのでしょうか? もし違うとすれば一体それはどのよう に世界の見え方を変えてしまうのでしょう?実はこのような疑問を初めて人類が持ったのはたった100年 前のことでした。17世紀以来アイザック・ニュートン(1642〜1724)が確立した、完璧なまでの 論理体系である古典力学は、全てのスケールは同様の物理法則の上に存在しているということをすべての人 に知らず知らずのうちに認めさせ、物理学者はそもそもスケールの違いということに目を向けることもしま せんでした。しかし19世紀には、古典電磁気学、古典熱力学が完成されていく過程で、科学者は否応なし にスケールの問題に少しずつ気がつくようになったのです。そしてついに20世紀に入ると、アルベルト・ アインシュタイン(1879〜1955)による相対論の完成(非常に大きなスケールの世界を記述できる) とコペンハーゲン学派のニールス・ボーア(1885〜1962)を中心とする人々による量子力学の完成 (微小なスケール<1億分の1メートル程度の世界を記述できる)によりスケールの異なる世界を掌る物理 法則は決定的に違うということが判明しました。ただし、決定的に違うとは申しましても、それはあくまで 世界の我々に対する立ち表れ方が異なるということでありまして、あくまで、量子力学で私たちが普段生活 するスケールの世界を記述しようと思えばそれはニュートンの古典力学とほぼ等しいものになり、相対論で それを記述しようとしても同様に古典力学の形に落ち着きます。ですから実際には人間の生きるスケールも 少しですが量子力学的であり、また相対論的なわけです。量子力学では存在とは何かを考え直す必要があり ます。また相対論では時間とは何かを考え直さなければなりません。その影響は日常生活においてはあまり に小さすぎて無いに等しいのですが、それでもそのような哲学的とも言える奇妙な物理とこの世界が連続的 に繋がっているということはなんとも不思議で魅力的なことで、まるで現実世界と夢の世界が繋がっている ようです。
この実験は上記の量子力学の世界に深い関わりを持つものです。もし我々が量子力学で記述される世界の 現象を間接的にしろ見てみたいとすれば、まず大変小さな系を作り出す必要があります。しかし原子や分子 をたった一つだけ持ってきて、そのなかでの現象をみるのはあまりに非現実的で、なにより我々が“制御” 出来る系でなければ何の意味もありません。そういう意味では原子や分子の世界はこのような目的にあまり 即さないということになります。では人間が制御できてかつ量子力学的な振舞いを見られるある意味“中途 半端”な大きさの系はないのでしょうか。実はそれが今回そして去年度もテーマであったメゾスコピック系 なのです。このメゾスコピック系こそ、我々の現実世界と夢のような量子力学の世界を繋いでくれる道なの です。その系では量子力学のもっとも大きな特徴である、物理量の量子化という現象を観測することが出来 ます。どのように試料を作るかまたどのようなメカニズムでそのような現象が表れるのかなどの詳しい説明 は後のページに譲ってここではその物理が如何に深い意味を持ちまた魅力にあふれるものなのかを強調する に止めておきます。では是非このHPを見た皆さんが今回のテーマに関心を持ち当日ご来場いただけけること を願いつつ挨拶とさせていただきます。
半導体QPC担当
三角樹弘